要請
日本の介護保険制度は、これまで世界に類を見ないスピードで進む少子高齢化の中で、地域を支える最後のセーフティーネットとして重要な役割を果たしてきました。
しかし、そのセーフティーネットとしての基盤は揺らぎ始めています。
厚生労働省が公表した最新推計では、2026年度に必要とされる介護職員は約240万人であるのに対し、約25万人が不足するとされています。さらに、長期的には2040年度には約272万人が必要になり、現状から約57万人の増員が求められると試算されています。
介護を必要とする高齢者は増え続けており、要介護認定者数は、2000年の約280万人から2023年には約708万人へと増加し、地域の介護需要は急速に拡大しています。
しかし、急増する需要に対応する供給体制は地域間で大きくばらつきがあり、都市部では介護難民、地方では担い手不足という二重の危機が進行しています。
全国的にみても、介護職員の有効求人倍率は3~4倍と極めて高く、特に訪問介護は14倍と採用難が慢性化しています。また、現在の介護職員の平均年齢は47歳前後で、訪問介護員は54歳であり、将来を考えると、介護職員の高齢化も進むことで介護職員の負担増、サービスの質の低下、離職率の上昇と事業継続を困難にする悪循環が進んでいます。
本提言は、こうした、現場の実態と地域の声を踏まえ、介護の持続可能性を確保するために必要な政策転換と制度改善を求めるものです。介護の仕事は「人」が支える領域であり、地域の暮らしを守り、他産業で働く人も支える生活の基盤です。今こそ、国と自治体、そして現場が一体となり、未来に耐えうる介護制度構築に向けた議論と行動が必要です。
以上のことを踏まえ、以下のように要請します。
要請1:物価高騰に対応できる基本報酬の増額
1.現場の実態
・2022年以降の物価上昇率は累計で10%以上である。
・2024年度の介護報酬改定は+1.59%にとどまり、物価上昇に対して実質的にマイナスである。
・介護事業所の約4割が「赤字または収支ぎりぎり」という調査結果があり、2025年の倒産件数は176件(前年比2.3%増)で、訪問介護、通所介護の倒産が多い。
・報酬改定で新たに加算を創設しているが、加算単価に対して仕事の量が多く報酬に見合わないことがある。
2.課題
・基本報酬が物価上昇に追い付かず、事業所の固定費(光熱費・食材費・燃料費)が圧迫。
・経営悪化が利益を人件費に回せない構造を生んでいる。
・報酬改定で報酬が上がったといっても、算定しにくい加算が増えており仕事量に見合わない。
3. 提言
①令和8年度に実施する介護報酬改定について、改定の大部分が介護従事者の処遇改善に充てられており、物価対策費用は盛り込まれていない。医療報酬改定はベースアップに加えて物価高騰分の対応もされていることから、介護報酬も物価高騰分を加算してほしい。
②各サービスの基本報酬を、中小事業者の経営基盤を支え、事業者独自の事業運営が可能になるように増額してほしい。
③加算の算定単位数を見直し、小規模事業所でも加算を算定しやすくする、また、業務量に対して加算の算定単位数を増やしてほしい。
介護報酬改定において、プラス改定で全体的な引き上げを行う際に、一般的に算定しにくく、算定するコストと給付が見合わない加算を新設しないでほしい。
④BCPの作成や研修、訓練の実施や身体拘束を廃止するための委員会の設置など義務化されており、未実施事業所に基本報酬の減算をする構造になっているが、業務が増えるのであれば基本報酬を増やし、減算されるべき事業所と差をつけるべきと考える。
⑤都市部では、家賃などの高騰から、特に固定費の多い通所介護事業所が減少している傾向がある。住み慣れた地域で支援を継続するためにも、都市部の地域単価を変更するなど対応をしてほしい。
要請2
:職員の処遇の改善(賃金・キャリア・働き続けられる環境の改善)、人材の確保
1.現場の実態
・介護職員の有効求人倍率は3~4倍と全産業平均1.3倍前後を大きく上回る。
・2026年には介護職員は約25万人不足、2040年には約57万人不足と推計。
・介護職員の平均給与は全産業平均より月額3~4万円低い。
・訪問介護員の不足が深刻で、サービス提供困難ケースが増加している。
・最低賃金の上昇により、月給制職員と時給制職員の賃金差が減っている。
2.課題
・介護人材不足によりサービス供給が困難となり、地域包括ケアの構築に課題がある。
・賃金が低い為、他産業へ人材が流出している。
・経験を積んでも給与が上がりにくく、キャリア形成が困難。
・離職率の高さが、サービスの質と地域でのサービスの持続性を脅かしている。
・処遇改善加算の事務手続きが煩雑であり負担になっている。加算の算定にあたり、事業所規模や稼働率に左右され賃金格差が生まれている。
3. 提言
①すべての介護職員の賃金を全産業平均並みに引き上げるように制度設計してほし
い。
②介護職員に対し特定最低賃金を制度化してほしい。
地域最低賃金が地域で異なることで、最低賃金の低い地域から高い地域に介護従事者が流出する傾向がある。介護従事者の特定最低賃金を導入し地域により、介護職としての全国共通または広域圏の賃金の下限額を設定してほしい。
③報酬単価の地域区分を市町村単位ではなく、広域に設定し、地域差が是正されるようにしてほしい。
④小規模事業所や過疎地域事業所に対する補正を制度的に設けるようにしてほしい。
⑤処遇改善加算について、手続きの煩雑さ、仕組みの複雑さがあり、また、分配の不公平感が課題となっている。事業の稼働率や規模に左右され、職員間の賃金差を生んでいることから処遇改善の一部を個人単位での定額給付や、小規模事業所や地域差がある事業所に対する補正を行う制度設計をしてほしい。
⑥介護職員の経験、専門性に応じたキャリアラダーを制度化し、処遇の改善につなげる仕組みを作ってほしい。
要請3:文書処理の簡素化を含む仕事の効率化
1.現場の実態
・介護職員の業務の約3割が記録・書類作成に費やされているといわれている。
・訪問介護では、移動・記録・請求業務が負担となっており離職理由の上位になっている。
・事業所の種類、規模に関わらず書類や手続きが多すぎるという声が多い。
・申請業務など保険者によってルールが異なり、事業者の負担がある。
2.課題
・文書量が多く、利用者支援に割ける時間が減少している。
・ICT導入が進んだとしても、紙を使った業務も残され、職員の負担する業務量だけが増える構造になっている。
・書類の重複・非効率な運用が制度的に温存されている。
・保険者によってルールが異なることで効率的な業務や利用者の利便性に立った制度運営ができていない。
3. 提言
①国の基準を見直すことで、文書や記録業務を削減し、記録様式を統一簡素化してほしい。手続きについても、国基準を基にして、地域差がないようにしてほしい。
②小規模事業所のICT導入へのハードルが高いことから財政的な支援をもっと充実させてほしい。
③ケアプランデータ連携システムについて、事業所の負担すべき費用を公費負担とし、真に業務負担の軽減となるようにシステムの利便性を高め、ユーザーが使用しやすいようにしてほしい。(異なる医療・介護ベンダー間で給付管理データや帳票の共有ができる仕組みを作る)
要請4:その他
①区分支給限度額の引き上げをしてほしい。
区分支給限度額に含まれる基本報酬や加算が増えていく中で、区分支給限度額は増えていない。そのため、独居の人や認知症がある人身寄りがない人については、サービス量が増える傾向があり、区分支給限度額を超過することがある。
地域包括ケアシステムの根幹である、住み慣れた地域で自己決定をもって生活を継続するためにも見直しは必要と考えます。
②介護支援専門員の更新制廃止について、研修義務が残ることから実質的には更新制度の廃止になっていない。研修を実施する場合において、時間的な拘束や経済的な負担を可能な限り軽減し、介護支援専門員が実務上有益になるように個別性を持った研修内容を構築してほしい。
サービス事業所も含め、研修義務を課すことが増えている。事業所運営の負担とならないように研修内容を整理してほしい。
③通所介護の共同送迎について、共同送迎を実施するにあたり新たな費用が発生することから、送迎減算に該当することなく新たに送迎加算を算定してほしい。
④介護職員の人材紹介業について紹介手数料の上限設定の導入や早期離職対策について制度化し対応してほしい。
⑤運営基準を見直し柔軟な人員配置ができるようにしていくことで、結局事業者が最低基準の人員しか配置しないようになっており、現場スタッフの仕事量が増えている。介護現場が、報酬の構造上最低賃金、最低人員で運営を強いられやすい構造を考え、人員基準の緩和について一定の制限をしてほしい。
以上

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